25日、金融庁が7月17日から18日にかけてシャンティイ(フランス)で開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議においての議長総括を公表した。今回のG7会議では、フェイスブックのリブラ発表により、民間企業がステーブルコイン発行する上での懸念点を確認する議題が多くを占め、良くも悪くもリブラに注目が集まる国際会議となった。
あらためて会議総括のポイントを、ステーブルコイン発行に関するものを中心にピックアップする。
リブラのようなステーブルコインに対する総括
技術革新は大きな便益をもたらす可能性があるがリスクも伴う。特にリブラのようなグローバルなステーブルコインは深刻な懸念や政策上の課題を生み出している。これらの課題は発行される前に対処すべきである。
リブラのようなステーブルコインは、各国の通貨発行の主権や国際通貨システムの機能に影響する可能性がある。金融システムを脅かすことのないよう、最高水準の金融規制を満たす必要がある。
決済インフラ委員会(CPMI)議長であるブノワ・クーレ氏が率いるG7ステーブルコイン作業部会にて、G20及び金融安定理事会(FSB)と連携して課題を検討するよう求める。最終報告はIMF世銀年次総会までに期待する。
G7ステーブルコイン作業部会による特筆すべき事項
・クロスボーダー決済は大きな便益をもたらす可能性がある。
・暗号資産は値動きが激しく決済には向いていない。
・ステーブルコインは価格が安定しており広く普及する可能性がある。
・ステーブルコインは金融包摂を後押しする可能性がある。※金融包摂は銀行口座を持っていないような人々に経済的な便益を提供し経済圏に取り込もうとすること。
・ステーブルコイン発行は官民双方の取り組みが必要であることを浮き彫りにしている。
・ステーブルコインは誕生間もなく、犯罪対策、個人情報保護、税制問題など多くの重大なリスクがある。
・規模の大きい民間企業は急速に普及させる可能性があることから、当局は警戒を怠らずリスクと影響を評価していくことが必要不可欠である。
・金融活動作業部会(FATF)によるガイダンスや、BIS決済インフラ委員会(CPMI)、証券監督者国際機構(IOSCO)による「金融市場インフラのための原則」を遵守することが求められる。
・全ての関連法域において順守する法的基盤を示し、すべての人に対して保護と保証を確保すること。
・発行者は運用方針やリスク管理はもちろん、運用面でも信頼性を確保すべき。
・裏付け資産は安全に慎重に透明性をもってなされるべき。
・懸念に対応するためには詳細情報を利用できるようにする必要がある。そのためステーブルコインの開発者は、承認を得る前に一般社会や当局との関係のさらなる強化が求めらる。
ステーブルコイン発行はほとんど官主導か
作業部会が挙げた項目は、まるでステーブルコインの普及を目論むウィンクルボス兄弟が提唱したような内容だが、国際会議上のステーブルコイン作業部会がリストした項目である。
金融システムのデジタル化の波とも言えるステーブルコイン発行の問題は、やはり一国では収まらない。フェイスブックのような世界企業がひとたび便利なコインを発行すれば、瞬く間に世界に広まることを財務主要メンバーもすでに把握しており、発行する前にすべての課題において深く考慮した上で発行すべきとしている。
一口に深く考慮と言っても、それは金融活動作業部会(FATF)ガイダンスや、国際決済銀行(BIS)、決済インフラ委員会(CPMI)、証券監督者国際機構(IOSCO)など国際的にも議論が必要な機構は多岐に渡る。さらに米国議会でも声が上がっているように、例えば米国内だけでも銀行法への対応や米証券取引委員会(SEC)への認可など認められるべき規制当局は数知れない。
こういったことから今後の議論の中心はフェイスブックではなく官であり、規制当局が危機意識を持って議論が進められることが予想されている。
リブラ発行は夢物語なのか
状況からは世界を代表する大企業フェイスブックとは言えど、一つの民間企業がステーブルコインを発行する日が来るのかどうか、非常に疑問がわく。例えば、仮に米国の中央銀行が主導して進めると想定しても、国際的に解決しなければならない問題が多く大きな手続きの壁があることが想像される。
今回の会議では、ブロックチェーン技術やそれを使った仮想通貨の技術進化が広く知れ渡ったとも言えるものだったが、この総括を読む限りではリブラとして進めることすら不可能な気さえする。いっそのことすべてをまとめた国際デジタル通貨発行として議論を進めてはどうだろうか。